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両立支援の取組み事例

職場復帰までの流れを明示した「健康度区分」を定めて両立できる環境を整備職場復帰までの流れを明示した「健康度区分」を定めて両立できる環境を整備

 福岡県久留米市に本社を持つ株式会社ムーンスターは、2018年に創業145周年を迎えた。現在、全国に865名の社員が働いており、スニーカー、婦人靴・紳士靴など毎年約2,000万足を国内外に出荷している。特に、広く親しまれているのは学校で使う上履きやグランドシューズ、子供靴だ。子供の足の成長を一番に考えて開発・製造されており、ムーンスターブランドはお客様の足元の“安心”と安全“を約束する印として認知されている。
 そんな同社は、治療と仕事の両立支援において、社員にも“安心”と“安全”を追い求めている。

「健康度区分」により身体的、心理的負担を減らす

 株式会社ムーンスターの治療と仕事の両立支援の流れは次の通りだ。
 まず、人事は上司からの相談を受けて、産業医と相談し、治療と仕事の両立支援を進めていく。両立支援に必要な情報が不足している場合には、その社員の同意を得た上で、産業医に主治医へ連絡を取ってもらう場合もある。他にも、職場の同僚が日々の業務を、保健師が会社内の手続き等をサポートしていく。

 さらに、休職に至った社員が復職するときの流れも明文化されている。




 健康度区分を作るきっかけとして、株式会社ムーンスター人事部人事課長である田尻 和真氏は「復職を目指す当人はやる気満々で職場に復帰してきますが、長期休職が明けたばかりではいろいろな支障が考えられますので、段階を経て体を慣らしていく必要があったからです」と説明する。

 「『健康度区分A(就業時間等の制限なし(通常の就業))』にしていく道筋を明らかにすることで、一つ一つ段階を追って、無理せず、焦らずに回復に専念してもらいたいと考えています。また、会社がこれを決めることで、当人が仲間に迷惑かけているのではないかという心理的な負担を感じないようにしたいという思いもあります」と続ける。

 この健康度区分を定めるにあたって、産業医から次のようなアドバイスを受けたという。「当人の負担を考えて、長期的なゴールと短期的なゴールをつくることがポイントです。治療に専念するための休暇を取得する時点から、復職までの期間の段取りを示した職場復帰支援プランを作成することで、当人ががんばれる目安になりますから」(田尻氏)。

 実際、復職は『健康度区分B3(一日あたり半日就業時間短縮)』からスタートするケースが多いという。その後、産業医と一定期間後に面談を行い、実際の職場での状況や本人の体調を総合的に判断していく。

急性白血病から復職した社員の事例

 ある日、原因不明のめまいと発熱で会社を休んだある若手社員は、後日、精密検査を受けに会社近くの病院へ行ったところ、急性白血病の疑いがあるとそのまま入院となった。「急性白血病である事を承知の上、当人が無菌室に入っていても、職場の仲間がお見舞いに行き、励ましていました」と、田尻氏は振り返る。

 その後、福岡県外の自宅の近くの病院に転院し、骨髄移植のための準備が進んでいく。近親者に適合する骨髄がなく、臍帯血移植する事に。「この頃、職場の上司がお見舞いに行き、職場の現状や同僚からの“待ってるよ!”という温かい声を伝えたそうです」(田尻氏)。

 その後、骨髄移植が成功して無事に退院。自宅療養と定期的な通院を繰り返していた期間でも、上司とはメールでいろいろな情報交換をしていた。メールのやりとりを重ねていく中で、当人の状態が改善していることを知った上司は、毎年恒例の社内イベントの時期が迫っていたこともあり、当人を招待する企画の実現に動き出した。

 そこで田尻氏は産業医を通じて、主治医から人混みやホコリを避けることを条件に社内イベントへの参加の許可を得たという。それは、最初の入院からちょうど1年が経った頃のことだった。

 当日、上司が電車で実家まで迎えに行き、本社へ。その交通費、宿泊費などの全費用は部署の積立金から出し合った。
 「この時、仲間全員で細心の注意を払いましたが、もちろんすべてのリスクを避けることは困難です。それを承知の上で、主治医や産業医のアドバイスを受けて、みんなで話し合い、“病気の回復と職場復帰を待っているんだよ”、というみんなの思いを伝えたいと、招待を決断しました」と田尻氏は振り返る。

 その4ヶ月後、産業医と主治医との間で、復職に向けた条件等について話が進められることになった。注意事項等の確認も慎重に進められた。
 さらに4ヶ月後、本人とご家族に職場へ来てもらい、職場の様子を見てもらうことになった。「職場環境はもちろん、人間関係、雰囲気など実際に見ていただいた上で安心してもらいたい、というのが一番の目的でした」と田尻氏。

 そして翌月、『健康度区分 B3 一日あたり半日就業時間短縮』となり、半日勤務で復職した。
 産業医のアドバイスを受けて、「ホコリに配慮し、力作業を避けるよう仕事内容を変更して復職をサポートしました」(田尻氏)。1ヶ月後には、産業医との面談を経て『健康度区分B2(一日あたり2時間就業時間短縮)』へ変更。まもなく、『健康度区分A』に変更となり、現在は、仲間と共に元気に活躍を続けている。

会社で1人の社員を支え、家族の安心も支える

 「ムーンスターは、ものづくりの会社です。ものづくりで大切なことは社員一人ひとりが力を発揮して協力することです。ムーンスターにはそれぞれが自分の役割・責任をしっかりと果たした上で、できないところは皆で協力し合うという風土が根付いています。その中で、体調面で異変があれば相談する雰囲気があります。すぐに医務室に行って相談しなさいとか、通院、入院になるなら人事課に相談したらどう?と、先輩社員が世話を焼いて、まるで家族のように普段から話ができる温かさがあります」と田尻氏。

 「今回の事例は、1年半以上の治療の末、元の職場に復帰できた例でしたが、そうできない場合は当人の状態と照らし合わせて、活躍できる場所はどこなのかを探すことが人事担当者の大切な仕事だと考えています。会社としては人が活きる場所を探して、可能な支援策をすべて検討することが必要だと考えています」と、田尻氏は語る。
 さらに、「人事担当として人員の補充が必要かどうかを職場に確認して、必要な場合は可能な限りあらゆる手段を取っていくことが重要だと思っています。今回は、今いるメンバーで補うという現場の意思を尊重しました」と田尻氏。

 また、産業医の存在も頼りになったという。
 「上司も本人も、まず大切なことは慌てないことです」と助言をもらった。病気である当人にどのような印象を与えてしまうかを考慮すると、上司も、まず落ち着くことが大切。慌てて判断するとミスリードすることにつながってしまう。
 そして、「復職できるまでしっかり治療し、“安心して”休んでもらうことが第一です。復職が前提ならば、適切な対応ができるように定期的に連絡を取り合い、“待っている”というメッセージを届ければ安心してもらえるはずです」という産業医からのアドバイスが役に立ったと振り返る。

 長年、お客様の足元に対して“安心”と安全“という約束を貫いてきたムーンスターブランドは、社員一人ひとりの“安心” と“安全”を追求する会社に集まった社員一人ひとりの思いやりが守り続けている。

©Ministry of Health, Labour and Welfare