厚生労働省

治療と仕事の両立支援ナビ

両立支援の取組事例

オールマリアンナ(分院を含む)で
病院全体としてのトップダウン型の両立支援への取組

学校法人 聖マリアンナ医科大学

内科学 脳神経内科学講座 教授 山野 嘉久氏

会社名
学校法人 聖マリアンナ医科大学
所在地
神奈川県川崎市
事業内容
教育、学習支援、医療、福祉、複合
設立
1971年4月
従業員数
5,678名(2021年10月現在)
平均年齢
42歳/男女比 男性4:女性6

1971年に創立された聖マリアンナ医科大学は今年で開学50周年を迎えました。理念である“生命の尊厳を重んじ、病める人を癒す、愛ある医療を提供する”を実践する上で必要な当院の6つの方針の中に、”患者の人権を尊重し、十分な説明と同意のもとに社会に開かれた医療を提供する”との全人的な考え方があります。両立支援の取組は、本理念や基本的な考え方に沿った重要な取組であると考えています。

患者さんへの両立支援の体制をお聞かせください。

2017年度からメディカルサポートセンター窓口とがん支援センター窓口に両立支援コーディネーターを各1名づつ配置し、両立支援を含めた就労相談体制を構築していました。このような環境整備により、院内の医療スタッフや患者さんの両立支援の理解は少しずつ拡大していましたが、十分とはいえない状況でした。そこで我々は、両立支援を医療システムの中に社会実装することが重要と考え、2020年度から「両立支援外来」を新設し、担当医師3名・MSW(医療ソーシャルワーカー)・看護師らから成る両立支援外来チームを発足させました。また、新たに4名が両立支援コーディネーターの資格を取得し、計6名の両立支援コーディネーターを各窓口に配置しました。その結果、当院では両立支援に関する相談件数のみならず、療養・就労両立支援指導料算定や患者さんの復職維持まで至った両立支援制度の活用事例が著明に増加し、両立支援好事例を創出することが出来るようになってきました。さらに、2021年度からは東横病院(分院)にも同様の両立支援外来を開設し、多施設で両立支援体制を構築しています。

企業や産業保健スタッフ等との連携方法についてお聞かせください。

患者さんの働いている企業での勤務情報が大切なため、両立支援コーディネーターは患者さんに、企業と共同で作成をしてもらう「勤務情報提供書」をお渡ししますが、書類をお渡しするだけでは上手に進まないこともあります。その際は企業の担当スタッフへ直接連絡し、提供書の説明・情報の共有をすることもあります。両立支援外来の受診時には「勤務情報提供書」をもとに両立支援担当医師が患者さんと一緒に就労状況を確認し、病状経過や今後について企業にむけて「主治医意見書」を記載します。ここでも書面だけでは進まない場合があり、電話での連絡や、状況に応じて患者さん・企業の担当スタッフと両立支援担当医師・両立支援コーディネーターが一緒に話し合いをする場を設けることもあります。書面、電話連絡、対面での相談等の方法で連携することで、患者さん・企業の担当スタッフ・病院とが協働して復職プランを検討していけるようにしています。

産業保健総合支援センターや近隣の医療機関との連携についてお聞かせください。

2018年1月から神奈川産業保健総合支援センターを中心に、当院を含む神奈川県内4か所の医系大学病院(北里大学病院、聖マリアンナ医科大学病院、東海大学医学部付属病院、横浜市立大学附属病院)や労災系病院(関東労災病院、横浜労災病院)が連携し、各医療機関における患者さんや職場の上司からの「相談」、「個別訪問支援」及び「個別調整支援」の具体的な事例や、各医療機関での両立支援の普及のための取組等を情報共有する”神奈川両立支援モデル”と称した両立支援活動に参加しています。本モデル活動では、年1-2回の両立支援担当者会議が開催され、積極的に各医療機関の事例紹介・現状や課題を共有し、神奈川県全体の両立支援促進に努めています。また、2019年度からは同センターと協定を締結し、両立支援促進員(社会保険労務士)の出張窓口を増設し、就労患者さんの相談を随時受付できる体制を確保しています。また、2021年4月からはハローワーク川崎北と連携し院内ハローワーク出張窓口を新設し、通院患者さんを中心とした再就職や復職サポート体制を確保しています。

患者さんに院内の両立支援の取組をどのように周知されていますか?

外来患者さんや家族を対象として、相談窓口と神奈川産業保健総合支援センターの相談窓口の電話番号を記載した当院オリジナルの”両立支援カード””両立支援ポスター・ボード ”を作成し、院内・学内に広く掲示することで、周知活動を行っています。2018年度からは、”治療と仕事の両立支援チラシ”を入院時の案内冊子に組み込み、入院患者さん全員へ通知しています。また、当院の両立支援コーディネーターによるがん患者さん・家族を対象とした院内勉強会を通じ、患者さんが相談しやすくなるよう努めています。教育機関として、医学生への講義にも両立支援外来の取組を盛り込むなど、将来の医師への教育も積極的に行っています。さらに、地域に対しては、地域向け広報誌に両立支援外来の取組を掲載し、両立支援が必要な患者さんがいれば、気軽に紹介受診できるよう体制を整備しています。



今後の展望・課題をお聞かせください。

両立支援外来の設置により、相談件数のみならず両立支援の実現に至った患者数が飛躍的に増えたことから、両立支援を真に医療に普及していくためには、両立支援外来の設置を推進・継続していくような制度設計が重要であると考えています。今後は、両立支援外来での症例をさらに蓄積していくため、治療と仕事の両立支援事業の認識を拡げていけるように院内スタッフへの普及啓発活動をすすめていくとともに、患者さんの企業の担当スタッフとの協力体制の構築にも挑戦し、好事例を継続して増やしていけるように努めたいと考えています。

取組事例一覧