厚生労働省

治療と仕事の両立支援ナビ

両立支援の取組事例

「がん相談支援センター」と「医療福祉相談室」の
医療ソーシャルワーカー・看護師が復職をフォローアップ

公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院

がん相談支援センター がん相談支援室長
松嶋 史絵氏

会社名
公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院
所在地
岡山県倉敷市
事業内容
医療業
設立
1923年6月
従業員数
3,635名(2021年12月現在)
平均年齢
37.6歳/男女比 男性2.5:女性7.5

倉敷中央病院は地域医療支援病院の承認を受けた地域最大の基幹病院で、入院や手術など高度で専門的な医療を24時間体制で行う病院です。「患者本位の医療」、「全人医療」、「高度先進医療」を基本理念としており、両立支援においても患者さんの意思や権利を尊重し、個々の患者さんにとってのより良い方法を一緒に考え、心理・社会的側面から支援を行っています。

何がきっかけで患者さんへの仕事と治療の両立支援に取り組まれたのでしょうか?

これまで、特に当院のような急性期の医療機関では、医療機関は”病気を治療する”場所であり、患者さんがどのような仕事に就き、どうしたら治療と仕事が両立できるのか、ということへの関心は必ずしも高くなかったと思います。ところが、若年で”がん”を罹患される方も決して少なくはなく、「会社から治療に専念するように言われたけど先行きが見えず不安」「職場に迷惑を掛けるから退職を考えている」「仕事は続けたいが治療をしながら復職できるだろうか」という声を聞く機会も増えてきました。
実際に、就労世代の3人に1人が”がん”に罹患していると言われており、部位や進行状況によって一概には言えませんが、医療技術の進歩とともに全がんの5年相対生存率は68.9%まで向上し、”がん”は長期的に上手に付き合っていく病気のひとつになっています。一方で、個人差はあるものの治療の副作用が出現し、日常生活や社会生活に支障を来す場合もあります。患者さんご自身が、病状、治療方針、治療のスケジュールや生活上の留意点等をしっかり理解し、必要な情報を職場に伝え、働き方を相談できると良いのですが、実際にはなかなか難しいのではないかと感じています。
そんな中で、「療養・就労両立支援指導料」が診療報酬上に位置づけられたことが後押しとなり、がん専門相談員(医療ソーシャルワーカー・看護師)が両立支援コーディネーターの研修を修了し、”治療と仕事の両立支援”に取り組む体制を整備することとなりました。

患者さんへの両立支援の院内体制をお聞かせください。

当院の相談窓口には「がん相談支援センター」と「医療福祉相談室」の2つがあり、がん以外の病気についても、治療と仕事の両立について相談をお受けしています。
患者さんご自身やそのご家族、または院内の複数職種からの相談や依頼を受け、病状や仕事への意欲・希望を踏まえてどのような支援が必要かアセスメントし、支援介入を行います。必要な場合には、患者さんに同意を得て「勤務情報提供書」を提出していただき、職場の状況や利用できる制度を確認します。その上で、主治医と連携して、病名、症状、治療予定、就業継続や職場復帰の可否、業務上望ましい配慮やその期間について「主治医意見書」を作成し、療養指導を行います。その内容をもとに、職場や産業保健スタッフと復職や両立に向けた具体的な話し合いを進めていくことになります。また、復職後も必要に応じてフォローアップを行います。


「勤務情報提供書」

「主治医意見書」

外部支援機関の活用方法、連携方法をお聞かせください。

岡山産業保健総合支援センターとは、2020年1月に”治療と仕事の両立支援事業実施に係る協定”を結び、以降、院内における出張相談会(月1回)において両立支援促進員による個別相談に応じていただいています。コロナ禍での感染防止対策としてオンラインも活用しており、院内だけでなく自宅からでも気軽に相談できる体制ができています。
また、岡山公共職業安定所・倉敷中央公共職業安定所とは、2020年3月に”長期療養者就職支援事業実施に係る協定”を結び、月1回、就職支援ナビゲーターによる出張相談会を実施中です。患者さんの居住地に合わせて継続的なサポートが得られるように関係各所とも円滑に連携いただいています。
個々の患者さんの状況に応じて各々の専門的立場から助言や情報提供をいただいており、患者さんの満足度も高く、具体的な行動に結びつく契機になっていると思います。適宜気軽に相談できる関係性を構築できたことが、患者さんへの支援に繋がっていると言えます。
また、最近では岡山県社会保険労務士会より依頼を受けて両立支援についてお話しする機会もいただき、専門職の仲間の輪も広がっていっています。

患者さんに院内の両立支援の取組をどのように周知されていますか?

がん相談支援センターという相談窓口があること自体、ご存じない方もおられるかもしれません。両立支援に限らず、”がん”に関わる様々なご相談に応じる窓口なのですが、大切なことは、その方にとって必要なタイミングで相談窓口にアクセスできることだと思います。そのためには、センターの存在や私たちの取組を広く周知し、気軽に相談できる存在であることが求められますが、それがとても難しいと言わざるを得ません。
少しでも目に触れる機会が得られるように、がん相談支援センターで治療と仕事の両立支援を行っていることや、専門機関と連携して就労・就職出張相談会を開催していることについて、ホームページ、院内掲示板、パンフレット、待合ディスプレイ、相談会当日の院内アナウンスを用いてお知らせしています。また、相談会当日は、窓口がわかりやすく目に留まりやすいようにセンター入口にバナーを設置しています。
仕事のことを病院に相談できるとご存じない方も多いため、医療用データウェアハウスシステムを活用して、入院時の問診表で「仕事のことが気がかり」とチェックされた患者さんを抽出し、相談員から個別に声掛けを行い、具体的にお話を伺う中で、適宜その方に沿った情報提供や相談会の案内も行えるように工夫しています。



今後の展望・課題をお聞かせください。

医療現場では”治療”が優先されるため、まだまだ”仕事の悩み”は見落とされがちです。がん診療連携拠点病院では”がんと診断がついたら早期の段階でがん相談支援センターを紹介すること”が求められていますが、実際には周知が一番苦労する部分であり、「もっと早く相談できることを知りたかった」という声をいただくこともあります。また、相談に行く・電話を掛ける、ということ自体がハードルになることもあると思います。気軽に訪ねられる場所でいられるように、今後も広報活動を続けていきたいと思います。
両立支援においては、職場からは”就労可否”を医学的に判断することが求められるものの、実際には仕事内容や職場環境は個々で異なるため、ある程度詳細な勤務情報を得た上でないと適切な指導を行うことは難しく、医師の診察場面だけでは対応が困難な場合もあります。患者さんの「働きたい」という意思を前提として、職場が欲しい情報が何か、復職にあたりできること・難しいことは何か、いつまで難しいのか、働く上で配慮が必要か、ということについて、「主治医に相談しましょう」と患者さんに伝えるだけでは解決できないこともあります。そういう時には、患者さんだけでなく、企業の皆さんにも相談窓口を知っていただき、相談を促していただくことや連携してより良い方法を検討していくことができると良いと思います。 そのためにも、県内の相談支援センターや産業保健総合支援センターとも連携して、企業側への広報や意見交換の場を持てるように取り組んでいきたいと考えています。

取組事例一覧