株式会社浅野製版所
全従業員に年1回の面談を実施し、何でも相談できる風土を醸成
企業概要
| 所在地 | 東京都中央区築地3-14-2 |
|---|---|
| 業種 | 製造業 |
| 設立 | 1949年 |
| 従業員数 | 36名(2025年6月1日現在) |
| 平均年齢 | 42歳 / 男女比 男性6:女性4 |
| 産業保健スタッフ | 1名(産業医(嘱託)) |
| 事業内容 | 新聞・雑誌広告・印刷関連事業 |
取組の概要
全従業員との定期的な面談を続けていたことに加え、何かあった際の相談窓口や相談フローを周知していたことが、従業員ががんに罹患した際の迅速な相談・対応につながった
取り組んだ背景、経緯
- 10年以上前、当社では長時間労働が常態化しており、離職者が続出している状況でした。いくら採用をしても離職が止まらず、売上も右肩下がりになり、会社存続の危機に陥っていました。そのような中、根本的に働き方を変えなければいけないという危機感がありました。
- そこで、2014年頃から、まずは経営企画部(当時)の担当者が、従業員1人ひとりと面談を行い、話を聞くという取組を始めました。最初は不満の声を聞くばかりでしたが、しだいに従業員から要望があがってくるようになりました。こうした要望に真摯に対応しているうちに、意見を言いやすい風土ができ、5年程度継続した頃には、より前向きな提案があがってくるようになりました。こうした取組によって、困った時にすぐに相談できる風土も醸成されました。
- 2016年頃には、心身の不調で会社に来られなくなった従業員に対応する中で、従業員がどのような状況であっても働き続けられるよう、短時間勤務(短時間正社員)制度、時間単位の年次有給休暇、柔軟な勤務時間(時差出勤制度)などの導入を行いました。また、体調不良者が発生した際の相談フローができました。
- このときに構築した相談フローや、柔軟な働き方の制度、産業医との関係性が、がんに罹患した従業員の治療と仕事の両立支援をするうえでも役立ちました。
POINT
取組・推進体制、労使での話し合いの機会
- 治療と仕事の両立支援に係る個別対応においては、機微な情報も扱うことになるため、広く相談しながら進めることが難しい場合があります。
- 相談を受けた場合は、まずは相談窓口の担当者と管理部門の部長で対応を相談しています。そのうえで、話してよい範囲や内容を従業員に確認し、産業医や関係する所属部署内外の管理職とも適宜連携しています。
相談窓口、社内における両立支援体制の整備
- 2014年頃から始めた全従業員との面談は、現在に至るまで継続しています。毎年3月に相談窓口の担当でもある産業カウンセラーが30分~1時間程度の時間をとり、業務や社内の人間関係のことから、介護・育児・通院等の生活に関することまで何でも話せる機会としています。また、定期的な面談以外でも何かあれば相談できるように、管理部門を社内の相談窓口として周知しています。
- 相談にあたっては、上司を通さずに相談ができる仕組みにしており、従業員が安心して相談できるよう、相談フローを図式化し、社内に周知しています。まず、相談窓口の担当でもある産業カウンセラーが相談を受けると、共有してよい範囲・内容を相談者本人に確認したうえで、所属部署の管理職や、関係部署の管理職に対して、管理部門から対応方法について指示しています。さらに、医学的な助言や指導が必要であれば、産業医にも適宜報告し、対応に関する意見を求めています。
- 普段から産業医に気軽に相談できる雰囲気づくりも心掛けています。
-
<社内で明示している相談フロー>(同社提供)
POINT
日頃から面談などで関わりを持っていたため、がんに罹患した従業員は、『会社は何とかしてくれるだろうし、話しておいた方が仕事をしやすい』と思い、すぐに会社に相談してくれたそうです。
がんに罹患した従業員への支援
- 従業員からがんに罹患したことについて申し出があった後、まず、産業医と以前社内研修を実施した際に講師を依頼した病院(以下、A病院)の医療ソーシャルワーカーに、どうやって両立支援を進めていけばよいかを相談しました。その際に、がんについての資料を提供いただき、治療と仕事の両立に関する参考資料として、社内で情報を共有しました。
- 従業員には、①いつ頃復帰できるのか、②どのような配慮が必要か、③なぜそのような配慮が必要か、④今回の事情を知っているのは誰か、⑤主治医から何と説明されたか、を確認し、働き続けるために従業員が求めていることを具体的に把握しました。
- 従業員には、「会社として必要なサポートを行うので、遠慮なく申し出ること」「必要であれば就業規則の変更も行う」「大変でも仕事はやめてはいけない。いくらかでもお金が入ってくることは安心につながる」「とにかく自分の体を治すことを一番に考えて」といったことを伝えました。さらに、部署編成を見直して、従業員の仕事の負担を減らす体制を整えるよう、指示をしました。
- また、職場復帰後、産業医面談にて手術後の病状や今後の放射線治療スケジュール等を聴取し、働くうえで必要な配慮について、産業医から客観的な意見をいただきました。
-
<がんに罹患した従業員を支援した際のサポート体制図>(同社提供)
POINT
産業医や医療ソーシャルワーカーといった専門職と連携して対応できたことは、大きな助けになりました。
まずはこの一歩から!
- 年1回の全従業員との面談は、仕事のことだけでなく、プライベートのことについても話せる場となっています。また、年1回という少ない機会であっても、従業員と定期的に関わりを持つことで、何かあった時に従業員から相談してもらうことができます。
POINT
がんなどの病気は、従業員にとって重大な出来事であり、慎重な個別対応が必要となります。実際対応した時には、約10年間面談をした中で、従業員の状況を把握していたことや、気軽に話せる関係性を構築していたことが一助になりました。
これから取り組む企業の皆さんへ
- 従業員が仕事を続けたいと思っているのであれば、企業側は全力でサポートするべきだと思っています。担当者だけで抱えると、担当者自身が負担を感じたり、支援が不十分になったりすることもあるので、専門職と連携しつつ、対応することが重要だと思います。
(事業開発部 部長(両立支援担当):新佐さん)
その他の取組等
研修等による意識啓発
産業保健総合支援センターに依頼し、治療と仕事の両立をテーマとした社内研修を実施
- 健康企業宣言を行っており、ヘルスリテラシー向上のため、治療と仕事の両立支援に限らず、健康に関する様々な社内研修を実施しています。
- 産業保健総合支援センターのホームページで、治療と仕事の両立支援に関する社内研修の講師を依頼できることを知り、2024年8月に、産業保健総合支援センターによる「治療と仕事の両立支援啓発セミナー」を開催しました。
- セミナーは就業時間中に1時間程度、オンラインで開催し、全従業員が参加しました。
休暇制度、勤務制度
短時間正社員制度、時差出勤制度、時間単位の年次有給休暇、在宅勤務等を社内で整備。制度を利用する同僚をフォローする風土もあり、治療と仕事の両立の一助となっている
- 2016年に短時間勤務(短時間正社員)制度、時間単位の年次有給休暇、柔軟な勤務時間(時差出勤制度)などの制度を導入しました。短時間勤務(短時間正社員)制度は、治療等の事由を問わず利用可能としています。
- また、病気や育児・介護等で出社が難しい従業員には、業務に必要な画像を取り扱えるPCを貸与し、在宅勤務ができるようにしています。
- 職場内で同僚が制度を利用して休んだ際に仕事をフォローし合う体制・風土があり、治療のために通院で中抜けしても問題なくカバーし合えています。
取組の効果、課題の克服方法、今後の展望
企業だけで対応せず、関係機関や専門職と連携しながら対応することが重要
- がんに罹患した従業員から相談を受けたとき、担当者の発言が従業員本人の精神状態に影響を及ぼしてしまうのではないかと悩むこともありました。病状については無責任に大丈夫だと言うこともできず、また同じ言葉であっても、本人の精神状態によっては受け止め方が異なることもあります。
- 当時はできるだけ感情的にならないように努めながら、従業員が一番望んでいるものを聞き出すようにしていました。ただ、治療に関する相談は機微な情報も多いため、関係者に情報共有しながら対応を考えることが難しく、担当者の負担が重くなることがありました。
- そのような状況の中で、産業医や専門職などに担当者が相談し、専門的な情報をいただけたことや、相談できる先があるという安心感を得られたことは、非常に助かりました。企業だけで抱え込まず、様々な機関や医療の専門職と連携しつつ対応していくことが重要です。主治医とどうつながっていくかは今後の課題です。
- 働き方改革や健康経営の取組を進めた結果、10年程前とは全く違う会社になりました。職場の心理的安全性が高まり、従業員の勤続年数も伸び続けています。仕事を続けたいという従業員の思いに会社として応えられるよう、今後も治療と仕事の両立支援の取組を続けていきたいと思います。
(令和8年3月時点)
働き方を変えることをきっかけとした風土醸成・社内制度の導入でしたが、後に従業員ががんと診断されたと申し出があった際にも迅速に対応することができました。