千葉県がんセンター
関係機関と連携した相談窓口を設けて、相談体制を充実させるとともに、相談窓口の利用促進のため、働いている患者さん1人ひとりにアプローチ
医療機関/支援機関概要
| 所在地 | 千葉県千葉市中央区仁戸名町666-2 |
|---|---|
| 職員数 | 1,110名(医師198名、看護師497名、その他415名) (2025年4月1日現在) |
| 設立 | 1972年11月 |
| 病床数 | 450床 |
| 治療と仕事の両立を支援する担当部署 | がん相談支援センター。 看護師2名、医療ソーシャルワーカー2名の4名体制で相談に対応(その他、事務職員を1名配置)。 ※ワンストップで患者さんの相談対応を行うための患者総合支援センターの中に、がん相談支援センターを設置。 |
| 医療機関の種別・概要等 | ・厚生労働省指定の都道府県がん診療連携拠点病院。千葉県におけるがん対策の中心的な役割を担っている。 ・専門的ながん医療の提供、がん診療の地域連携協力体制の構築、がん患者・家族に対する相談支援及び情報提供等を実施。その他、がんゲノム医療拠点病院、小児がん連携病院の指定も受けている。 |
取組の概要
がん相談支援センターの相談窓口の他、産業保健総合支援センターなどの関係機関による出張相談窓口を設置し、患者さんが関係機関に直接相談ができる体制を構築。診察や会計の待ち時間を活用して、外来患者さん1人ひとりに相談窓口について周知し、働いている患者さんには両立支援の取組を案内
取り組んだ背景、経緯
- 当院は、都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受けています。都道府県がん診療連携拠点病院の指定要件に「がんに関する相談の専門研修を修了した相談員を配置する"がん相談支援センター"を設置し、患者さんや家族への相談支援や情報提供を行うこと」が追加されたことをきっかけとして、治療と仕事の両立支援の取組を始めました。
- 都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受ける前から、治療を受けながらも、経済的な理由から働かなければならないという相談が「心と体総合支援センター(現:患者総合支援センター)」に寄せられていたため、当院でも両立支援に関する取組が必要だと感じていました。また、以前は長期入院が当たり前でしたが、最近は、医療技術の進歩により、外来診療が主流となっており、入院が必要な場合でも入院期間が短縮されています。そのため、日常生活を送りながら治療することが多くなり、治療に対する相談ができる職場でなければ、離職する患者さんが増えてきたように感じていました。
- 当院のみで患者さんの働き方に関する相談に応じることが難しいため、2020年度から、産業保健総合支援センターと連携し、現在の取組を行うことになりました。
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<患者総合支援センター>
(同センターより提供)
取組・推進体制
- がん相談支援センターでは、看護師2名、医療ソーシャルワーカー2名が相談員として対応しています。同センターの相談員は、両立支援コーディネーター基礎研修を修了しています。さらに、産業保健総合支援センターが主催する両立支援コーディネーターの応用研修(事例検討会・交流会)にも参加しています。
相談窓口、院内における両立支援体制の整備
- 月に2回、産業保健総合支援センターの出張相談窓口を設け、同センターの両立支援促進員が治療をしながら仕事を続けたい患者さんの相談に応じています。「がんと診断されたけど仕事を継続したい」「病気のことを会社にうまく伝えられない」「治療と仕事を両立できるか不安」「今後の働き方について誰に相談したらいいか分からない」「職場の理解・協力が得られない」「治療に合わせた短時間勤務や、休暇取得が難しい」などといった相談が寄せられています。
- その他の相談には、当院のがん相談支援センターの相談員で対応しています。
- これらの取組を周知する目的で、初診の外来患者さんまたは再診の外来患者さん(ただし、前回の受診から数か月経った患者さん)に対し、外来患者さんが診察・会計を待っている間に、患者さん1人ひとりに相談員ががん相談支援センターの案内を行っています。その際、患者さんが働いているかどうかを尋ね、働いている場合、勤務状況などを聞き取り、取組を案内しています。
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<産業保健総合支援センターの出張相談窓口のパンフレット>
(同センターより提供)
POINT
がんに罹患した患者さんへの支援
- ベッドから動けないくらい、体調が悪い時期が長く、1年以上入院が続いていた患者さんがいました。入院中に少し体調が良くなったタイミングで、退院後の治療と仕事の両立を目指し、合計6回、相談対応を行いました。ある回では、企業の就業規則を確認する必要があったため、産業保健総合支援センターの両立支援促進員と一緒に、企業に確認するよう患者さんに伝えました。また、職場の上司(部長)や人事部の担当者に当院へ来ていただき、患者さんと一緒に働き方の相談を行いました。
- 退院の見込みが立った時に体調が悪化してしまい、結果的に、休職期間の上限3年を超えてしまいました。しかしながら、会社に貢献したいという思いが強かった患者さんは、入院中に上司との話し合いを行い、上司が社内調整を重ねてくれたおかげで、職場への復帰を果たすことができました。
- 退院後も1回、相談対応を行いました。その後は、相談窓口で面談はしていませんが、電子カルテで受診の様子をフォローアップしたところ、今でも元気に働いているようです。
POINT
治療と仕事の両立を実現させるためには、患者さん自身が現状の症状と予後(今後の見通し)を理解し、それらの情報を周囲にしっかりと伝えることが必要となります。この事例では、入院中から患者さんが職場のキーパーソンである部長に対し、予後を踏まえて、実現可能な働き方を伝えたこと、さらに、部長から人事部にかけあってくれたことで、関係者全員で働き方の相談ができました。そのことが功を奏したのではないでしょうか。
まずはこの一歩から!
- できるだけ早い段階で、患者さんに対し、仕事を続けるために必要な情報を提供することが重要です。例えば、手術の内容、術後の経過、療養期間、仕事における配慮事項などの情報を伝えています。
- また、患者さんに対し、職場への伝え方もアドバイスしています。患者さんが勤務日に勤務できるかどうかが見通せないと、企業は人員が確保できなくなり困ります。そのため、希望と異なる職場に配置されたり、希望する勤務日や労働時間通りに働けないなど、必ずしも患者さんの希望に沿うことができない場合もある旨を念頭に置くように伝えています。
- 企業の就業規則の内容を理解した上で支援する必要がある場合、医療機関のみでは対応が不十分になる可能性があるため、産業保健総合支援センターなどの専門機関の協力を得ることが必要です。
POINT
サポートは必要なく自身で企業に相談できる患者さん、当院の全面的なサポートが必要な患者さんそれぞれがいるため、患者さんがどちらのタイプなのかを見極めるようにしています。後者の場合、必要に応じて、企業の担当者と医師が直接相談できる場を設定するとよいでしょう。企業の担当者に医療機関へ来てもらうよう患者さんに調整してもらいます。
これから取り組む医療機関・企業の皆さんへ
<医療機関の皆さんへ>
- がん相談支援センターの相談員は4名しかいないため、困っている患者さん全員に、相談窓口を知ってもらうには限界があります。そこで、当院では、医師や看護師等の現場の医療職に対し、困っている患者さんを当センターに紹介してもらえるような働きかけを行っています。現場の医療職にも協力してもらえるよう、現場の医療職に取組の必要性や内容を知ってもらうことから始めていきましょう(詳細は後述の「関係者間の情報共有」を参照)。
<企業の皆さんへ>
- 早期発見・早期治療の観点が重要です。従業員が病気になってから、両立支援に取り組むのではなく、より多くの従業員に、健診の受診を心がけてほしいです。
- 最近は少なくなりましたが、企業から「きちんと治してから戻ってきてね」と言われて困ったという相談がありました。がんは一見治ったように見えても、経過観察の期間が必要であるため、治療後も通院が続きます。前述の発言を理由に、あえて職場に表明せず、年次有給休暇を消化して通院を続けていることも実際にあるようです。どのようにして職場に理解してもらえばよいかと悩んでいる患者さんもいることを企業に理解してもらえたら嬉しいです。
(がん専門相談員(看護師)中村さん)
その他の取組等
関係者間の情報共有
現場の医療職にも両立支援の必要性を理解してもらい、様々な職員から患者さんにアプローチが必要。
- 平成30年度診療報酬改定において、療養・就労両立支援指導料が創設されたタイミングで、産業保健総合支援センターの協力を得て、当院の医療職向けに、両立支援に関する研修を行いました。研修に参加した医師から具体的な質問もあり、両立支援への理解が深まったと感じました。
- 産業保健総合支援センターの職員が出張相談窓口で当院に来るときには、その旨を知らせる職員通達を出しています。その結果、特に外来診療においては、医師や看護師等が仕事のことで困っている患者さんをがん相談支援センターに紹介してくれるようになりました。また、電子カルテのフォーマットに、両立支援計画の内容を盛り込んだことで、外来や病棟の医療職とがん相談支援センターの間で情報共有が進んでいます。
その他
「千葉県がん診療連携協議会」や「千葉県がん対策審議会」の分科会内の「がんとの共生推進部会」に参加し、都道府県がん診療連携拠点病院として、地域のがん対策に貢献。
- 千葉県では、「がん診療連携協議会」のほか、知事直轄のがん対策審議会の分科会に「がんとの共生推進部会」があり、委員として参画しています。「がんとの共生推進部会」は、医療機関だけでなく、患者さん、企業、社会保険労務士などの多様なメンバーが関わっており、千葉県全体における治療と仕事との両立支援の促進を検討しています。
- 医療機関内だけではなく、社会に対する貢献を検討することも、両立支援の実現には大切だと考えています。東京都では電車に治療と仕事の両立支援に関する広告を掲示するなどの取組を行っていますが、千葉県でも日常生活で情報を得られる取組を行っていくとよいのではないかと思い、上記の協議会等で意見を出し、当院としても協力していきたいと考えています。
取組の効果、課題の克服方法、今後の展望
治療と仕事の両立につながったケースは多数あるものの、すべての患者さんで実現したわけではない。患者さんに伝える情報の充実や伝え方を工夫したい。
- がん相談支援センターに寄せられた相談のうち、治療と仕事の両立につながったケースは多数あります。また、ハローワークの出張相談窓口では、年間5~10件程度、就労につながっています。
- しかしながら、中には「がん相談支援センターが何でもしてくれる」と期待して相談に来る患者さんもいます。必ずしもそのような期待に応じた対応とはならないこともあり、患者さんががっかりする場面もあります。また、患者さんと企業の双方の立場を尊重して、中立的に相談支援を進める必要があるため、患者さんに対し、病状によっては仕事を続けられない場合があることを伝えなければならないこともあります。難しさや無念さは避けられません。
- だからこそ、できるだけ早い段階で患者さんに必要な情報を提供することが重要だと考えています。患者さんの仕事内容を把握した上で、これから受ける医療によって、仕事にどのような影響が生じるのかなど、提供する情報の充実を図ることが今後の課題です。
- 医療職は患者さんに対し、正しい情報を分かりやすく伝達することが重要です。医療に関する情報はわかりにくい内容も多いため、特に医師と患者さん間の橋渡しは、相談員としての重要な役割だと認識しています。
- がんそのものに伴う症状や副作用・合併症・後遺症などの症状を軽くするための支持療法が充実してきたこともあり、より一層、日常生活を送りながら治療を受けることができるようになりました。特に困難を感じないで、仕事も含めた生活を送ることができている患者さんもいますが、第三者からみて支援が必要なケースが見られます。相談の必要性も感じていない場合もあり、潜在的なニーズの把握も必要になると考えてます。
(令和8年3月時点)
がん相談支援センターを案内する際、患者さんの仕事の状況も伺うようにして、両立支援の必要性がある場合、「今の仕事を辞めないでください。仕事を続けられる方法を一緒に考えましょう」と伝え、がん相談支援センターに相談に来るように働きかけています。