※キーワード検索で、該当するページを一覧表示できます

厚生労働省

治療と仕事の両立支援ナビ

治療と仕事の両立支援コラム

こちらのページでは記事形式で
コラムをご覧いただけます。

  • #  本人
  • #  企業
  • #  医療機関

2025.02.26

中小企業が抱える課題とその解決へ向けて

全国中小企業青年中央会

会長 原田 守
元会長 大久保 高明
元近畿ブロック長 竹内 新
前会長 恵南 敏弘

左より 前会長 恵南 敏弘   会長 原田 守  
元会長 大久保 高明   元近畿ブロック長 竹内 新

コロナ禍を経て、全国の中小企業は緩やかに活気を取り戻しつつある一方で、人材不足などのさまざまな課題が山積しています。とりわけ中小企業では、一人ひとりの役割が重く、特定の社員が抜けるだけで事業運営に大きな影響が出ることも少なくありません。
一方で、このコロナ禍をきっかけにリモートワークや時差出勤など、多様な働き方に対応する流れも中小企業に波及し始め、現在では「社員ができるだけ長く働き続けられる環境づくり」の重要性を認識する経営者が増えています。
こうした状況のなかで、治療と仕事の両立支援に関して中小企業が抱える課題と、その解決策について伺いました。

コロナ禍後の活況と人材不足というジレンマ

コロナ禍による経済活動の停滞から抜け出し、受注や売り上げが持ち直してきた中小企業は少なくありません。ところが、業務量が増加する一方で、慢性的な人材不足が深刻化しているケースも耳にします。

特に、若年層の採用競争では、思うように人員を確保できないことが珍しくありません。とくに即戦力を求めたいという思惑と、実際の採用状況が噛み合わないケースが多いです。
実際、就職活動中の学生からは、「企業規模よりも福利厚生の充実度や職場の雰囲気、社風を重視している」という声も増えており、中小企業はこのニーズにどう応えるかが大きな課題となっています。

また、コロナ禍でテレワークが一気に普及したことによって、「出社せずに働ける」 という働き方の選択肢が一般化しました。これ自体は中小企業にとっても生産性向上のチャンスと考えられますが、どうしても初期投資や運用方法が分からず尻込みしてしまう企業も多いのが現実です。

「治療と仕事の両立支援」がもたらす可能性

中小企業では一人が抜けるだけで業務に支障が出る反面、社員同士や上司と部下のコミュニケーションが密であるため、「本人の状況を踏まえたきめ細やかな対応を取りやすい」という強みがあります。例えば、ある企業では「病気療養中の社員が完全復帰するまで、本人の体調に合わせて業務を調整し、徐々に本格的な仕事に戻ってもらった」ことで、退職を防ぎ、最終的には社内に欠かせない人材へ成長してもらうことに成功しています。

社員も「会社に大事にされている」と感じ、モチベーションが上がるのではないでしょうか。働く人が安心できる職場を作ることは、企業にとっても大きなメリットになるはずです。

一方で、「治療と仕事の両立支援」について言葉自体を知らない経営者も多く、「具体的にどう対応すればいいのか」「どこに相談すればいいのか」が分からないケースがあります。実際に、産業保健総合支援センター(さんぽセンター)、商工会議所や中央会などの経営者向け団体へ相談すれば、両立支援に関する資料や専門家の紹介を受けられる場合もあるため、まずは情報収集の第一歩を踏み出してみることが解決への近道となるでしょう。

社内環境整備の観点で言うと、会社のトップや管理職が率先して「治療が必要になっても働き続けやすい会社にしていこう」というメッセージを発信することが大切だと思います。経営者自身が「もし病気や通院の必要があるなら、遠慮なく相談してほしい」と言っている企業では、自然と社員が声を上げやすい雰囲気になりますし、従業員同士の理解にもつながります。

具体的には、属人化していた業務をチームで見直したり、マニュアル化したりするのも効果的です。「通院や治療のために勤務時間を調整する際、どのように業務を分担するか」「休暇取得や時短勤務をどう申請すればいいか」といった手順が明確になると、現場が混乱しにくいですし、周囲も協力しやすくなるでしょう。

(左)前会長 恵南 敏弘   (右)会長 原田 守

社内の環境整備が生む経営メリット

このように社内の環境整備を進めることで得られる最大のメリットの一つは、人材定着率の向上です。病気や怪我を理由に人材が流出すれば、企業にとってはコスト増だけでなく、ノウハウの喪失にもつながります。あらかじめサポート体制を整えておけば、従業員が安心して働き続けられ、結果的に企業としての生産性や信頼性が高まるのです。

さらに、このサポート体制を周知し「病気になっても働き続けられる選択肢がある」とアピールすることは、採用活動においても有効です。近年の就職市場では、単に給与や休日日数だけではなく、社風だったり、「もしものときに会社がどれだけ社員を支えてくれるか」も大切な指標とされています。その点で社内の環境整備が整っている企業は魅力的に映るはずです。

プライバシーと情報共有のバランス

しかし、実際に治療と仕事の両立を支援する中で、プライバシー保護と必要な情報共有のさじ加減が難しい問題として浮上します。とりわけ中小企業では「家族的な雰囲気」がある分、社員同士の仲が良すぎて、本人が望まないかたちで病気の情報が広まってしまうリスクもあります。

そこで重要なのは、あらかじめ「病気の情報をどこまで周知するか」を本人と話し合い、最小限の情報で最適な配慮を実行する仕組みを作ることです。たとえば、経営者や上司だけが詳しい病状を把握し、社内には「休養が必要なので、業務シフトを調整する」程度の説明に留める。こうした柔軟な対応は、大企業よりも意思決定が早い中小企業こそ実践しやすいと言えます。
企業と医療機関、本人と主治医のコミュニケーションも大切です。

一方で、社内の環境整備があっても当事者が「職場に迷惑をかけるのでは」と遠慮してしまうこともあります。特に中小企業では、業務をカバーする人数が限られているため、休まれると周囲に負担が集中しがちです。こうした心理的ハードルを下げるには、企業トップのメッセージと社内コミュニケーションが不可欠です。

「困ったときは遠慮なく言ってほしい」「お互い様の精神で助け合おう」という姿勢を経営者がはっきり示すことで、従業員も相談しやすくなります。また、周囲の社員に対しても、本人が復帰しやすい配慮をすることで、社内に前向きな空気が育まれていきます。

外部リソースの活用とトップのリーダーシップ

社内での両立支援を進めるうえでは、社内のみで完結しようとせず、外部の専門家や団体と連携することが不可欠です。たとえば、産業保健師や社労士、商工会・中央会の相談窓口など、企業が利用できるリソースは想像以上に豊富です。とはいえ、「その存在を知らない」「どのタイミングでどこへ連絡すればいいか分からない」という課題も残ります。

そこで鍵となるのが、トップの積極的な姿勢です。経営者が「うちは病気になっても働き続けられる会社でありたい」と社内外に宣言することで、社員の心理的ハードルは大きく下がります。さらに、経営者がまず外部リソースとつながりを作り、情報を社内に落とし込む流れを定着させると、少ない人員でも着実に両立支援を実践できるようになります。

中小企業にとって、「人材不足」と「組織の柔軟化」は喫緊の課題です。そんな状況だからこそ、治療と仕事の両立支援が持つ「人を大切にする企業文化を育む力」 に目を向けてみる価値は高いのではないでしょうか。導入には一見ハードルがありそうですが、仕組みを上手に活用すれば、「少人数だからこそ可能な迅速かつ丁寧な対応」が企業の強みに変わるのです。

病気を抱える従業員を支援することは、単なる慈善ではなく、企業が長期的に成長していくための戦略 のひとつと考えることができます。ぜひ、社内での両立支援を検討し、具体的な一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。