治療と仕事の両立支援コラム
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2025.02.26
個人の選択肢が増える社会へ向けて
会長 原田 守 氏
元会長 大久保 高明 氏
元近畿ブロック長 竹内 新 氏
前会長 恵南 敏弘 氏

(右)元近畿ブロック長 竹内 新 氏
「治療と仕事の両立支援」が普及することは、企業や社会全体に多様な働き方を受容する文化を根付かせ、個人の選択肢を大きく広げる可能性を持っています。
「休む」「働く」のどちらかしかないのではなく、あらゆる局面で“両方の選択”をサポートできる環境づくりとは、どのようなものなのでしょうか。
治療しながら働くことが当たり前になる社会は、「働くことを強制する」社会とは異なります。「休養が必要なら休めばいい」「働きたい人が働ける環境を作る」という選択肢が提示されることで、個々人が自分らしい生活を送りやすくなるのです。
働く意欲と生きがいを失わないために
病気が発覚したとき、治療に専念するか、治療しながら働くかは、あくまで個人の選択です。もちろん、病状によっては休職や退職が必要になる場面もあるでしょう。ですが、その選択肢が最初から用意されていれば、「本当は働きたいけれど病気だから無理だ」と諦めなくて済む人はたくさんいます。生きがいを感じられる職場を手放さなくて済むのは、本人にとっても大きなメリットです。
実際に、メンタルヘルスの問題で休職した社員が、少しずつ在宅勤務から始めたり、部署を異動して新たな仕事に挑戦したりすることで回復し、(結果論かもしれないけれど)新しい価値の発見があり、職場への信頼や生きがいを取り戻したという事例もあります。こうした事例が増えれば増えるほど、企業や社会全体が「病気と仕事は両立できるかもしれない」という共通認識を持つようになります。
選択肢が増えることが生み出す豊かさ
「治療に専念する」という選択肢もあれば、「治療しながら働く」という選択肢もある。あるいは「一度退職し、また復職できる」仕組みがある。こうした選択肢が社会に広がるほど、本人にとっての精神的負担は格段に軽くなると考えられます。
もし従業員が一時的に職場を離れても、その後の受け入れ体制があることで円滑に復帰しやすくなるため、ノウハウの継承や組織力の維持にもつながります。
「従業員の病気対応は大変だから」とネガティブに捉えてしまうと、せっかくのチャンスを逃します。テレワーク導入や業務のマニュアル化、社員同士のフォロー体制整備など、企業が新たなステージに進むきっかけでもあるんです。
まずは両立支援の概要を知り、「何か起きたときには、こう対応できる」と社内外に宣言するだけでも、従業員の安心につながる。従業員が安心して働ける環境を作ることは、結局、企業の成長にも直結すると考えています。
「治療と仕事の両立支援」には周知・トップの積極的姿勢・社内コミュニケーションの取り方がカギになります。中小企業ならではのきめ細やかさや柔軟性を活かせば、人材不足を補うだけでなく、社員が互いに支え合う風土が生まれ、企業の永続的な成長にもつながります。
今後、医療技術やテクノロジーが進化する中で、「働きながら治療する」ことがより身近になる時代がやってきます。積極的に両立支援を取り入れて、「誰もが自分らしく働ける社会」を実現していくリーダーシップを発揮してほしいところです。

両立支援が拡大すると、どんな人々が救われるのか
高齢化や医療技術の進歩が進むなか、病気になっても長く生きられる時代になっています。一方で、がんや糖尿病など慢性的な治療が必要な病気を抱える労働者も増えているのが現状です。また、若い世代でもメンタルの不調を経験する人が増え、「健康で当たり前」の前提が崩れつつあります。
こうした変化の中で、「病気=働けない」という図式を崩すことは、多くの労働者にとって朗報です。治療内容や症状によっては、フルタイム勤務が困難でも短時間勤務や在宅勤務なら可能なケースもあります。実際にそのような取り組みがある企業では、「通院日に休暇を取りやすくなった」「同僚と業務をシェアできるようになった」など、小さな調整が大きな安心感につながっているという声が挙がっています。
テクノロジーの進化と今後の展望
テクノロジーの進化は、良い悪いではなく避けられないもので、業務の自動化や省人化を助ける一方、オンライン診療や遠隔コミュニケーションツールの進化は、雇用を支える(「治療しながら働く」ことをますます容易にする)可能性も秘めています。まだ通院日数や通勤時間の軽減、在宅勤務の普及などは、特に小さな企業にとっても活用しやすいテーマです。
中小企業こそ、こうした新しい働き方を取り入れることで、結果として若い世代の雇用にもプラスの効果が期待できます。「ここの会社なら、病気やプライベートの問題があっても続けやすそう」と思ってもらえれば、採用面でも大きなアドバンテージになるでしょう。
おわりに
「治療と仕事の両立支援」は、個人の人生と企業経営の両面にわたって、選択肢を増やす鍵となる仕組みです。病気を抱える人が自分のキャリアを諦めなくてもよくなるだけでなく、企業側も貴重な人材を失わずに済む。そして、社会全体としては「誰もが自分らしく働ける」豊かな環境づくりへ近づくことが期待されます。
もちろん、実際に社内の両立支援を導入・運用するには、プライバシー保護の問題や社内外との連携など、解決すべき課題は沢山あります。しかし、「選択肢がある」というだけで、多くの人が救われる という事実を踏まえれば、これを導入しない理由はないのではないでしょうか。
もし企業として「どこから手をつければいいか分からない」と感じるなら、まずは商工会議所や中央会、医療機関や産業保健師など、相談先のドアを叩いてみるのが良いでしょう。各地にある相談窓口で、具体的なアドバイスや他社事例を教えてもらえるはずです。
治療しながら働く人の存在が当たり前になる社会は、決して遠い未来ではありません。個人の選択肢が増えることは、そのまま企業の可能性を広げることにつながります。お互いが支え合い、新しい働き方を柔軟に取り入れられる企業文化を育てることで、私たちは「人に優しい社会」を現実のものにしていけるのではないでしょうか。