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両立支援の取組み事例

トップダウンのメッセージで全社のヘルスリテラシー(健康意識)を高めつつ両立支援の環境を整備トップダウンのメッセージで全社のヘルスリテラシー(健康意識)を高めつつ両立支援の環境を整備

 日本だけでなく世界各地に拠点を持つ株式会社小松製作所(以下、コマツ)は、社長兼CEOの小川啓之氏が全社に向けて、「安全・健康・コンプライアンスは全てに優先する」として、職場に「安全衛生に関するメッセージ」と「コンプライアンス5原則」を掲示し、明快なメッセージを発信している。このトップのコミットメントが、今のコマツの健康管理の土台になっている。治療と仕事の両立支援、そしてその素地となる健康管理の取り組みを伺った。


「安全・健康」最優先のメッセージを配信

――まず、「健康増進センタ」の位置付けと体制を教えてください。

平岡:当社は建設・鉱山機械の製造および販売を行っており、国内の主要な生産10拠点に約15,000人、国内の販売・サービス、レンタルなどを行う「コマツカスタマーサポート」の販売拠点約300カ所に約5,000人が勤務しています。これら国内の全社員の健康管理を、本社「健康増進センタ」に所属する産業医9名、常勤看護職29名、その他非常勤産業医、カウンセラーなどでカバーしています。健康増進センタは、コマツ安全・健康管理役員が直接所管しており、広くグループ全体の健康管理の向上を目指しています。健康管理の取り組みについては、当社のトップが常々、何かを考える順番として、まず「安全・健康」が最優先されるというメッセージを発信しています。それを言葉にした「安全衛生に関する社長メッセージ」は、社内のどこでも目に付くところに掲げています。



必要な時に支援を受けられる環境を整備

――両立支援の取り組みはどのように進めているのでしょうか

平岡:2019年3月まで5カ年計画で進めてきた健康管理に両立支援は含まれており、特に意識せず取り組んできました。ただ、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」が示されたのをきっかけに、1年前に内容を同ガイドラインに沿ったものに改めました。それに伴って、両立支援の窓口の設置と、改めて両立支援に関する文書の社内周知を行って、心身の不調を言い出しやすい環境を整備しました。

 同時に、昨年12月に各工場の「安全衛生健康管理規則」を改訂し、ISO45001に沿ったマネジメント文書として正式に整備しました。この中で安全と健康に関して網羅的に文書化し、全社員がアクセスできる社内のイントラネットに保存しました。また、就業によって傷病を増悪させることがないよう、就労と治療の両立(例えば段階的な復職などの措置)が適切に実施されるよう業務要領を定め、社員が誰でも必要な時に両立支援を受けられるようにしました。


大友:広報としても社内報を通じて、安全や健康に関するインフォメーションを発信、健康増進センタと連携して社内ポータルによる情報の共有なども行って、健康について積極的に相談できる雰囲気づくりをしています。


平岡:イントラネットで周知している文書には、次のような両立支援の標準的な手順も記載しており、より具体的に両立支援をイメージできるようにしています。


<両立支援の実施内容>
〈1〉両立支援は、本人より主治医の診断書を提出の上、産業医がその要否の判断を行う。
〈2〉産業医による意見・助言は次の各号の通りとする。
  1. 産業医は、対象となる社員と面談を行い、傷病の治療状況を確認する。確認にあたっては、必要に応じて本人の主治医に治療に関連する情報の提供の依頼、または治療計画に関する助言を行うことがある。
  2. 産業医は、治療状況の確認に基づき、対象となる社員の職務内容を考慮して、就業規則に定められた範囲内の就業上の措置の必要性等に関する意見を各社・各事業所の総務担当部門(以下、「総務担当部門」という)および所属長に通知する。
    産業医の意見に基づき、就業上の措置の対象となる社員に対し、総務担当部門の判断で就業上の措置を適切に実施する。
  3. 産業医は、就業上の措置の対象となる社員の就業状況や治療状況、健康状態を定期的に確認し、1年を越えない期間で就業上の措置に関する意見を見直す。
  4. 産業医は、就業上の措置を実施しない場合であっても、対象となる社員に対し定期的に就業状況や治療状況、健康状態を定期的に確認し、必要に応じ就業上の措置に関する意見を総務担当部門および所属長に通知する。

井田:私たちは社員の健康診断の結果を厳密にチェックしているのですが、ちょっとでも異常があると、すぐに本人に声を掛けます。そうすると、社員もわれわれと接することに抵抗感がなくなり、気軽に相談できるようになります。

利用案内の文書は、実際の両立支援事例を掲載

――こうした両立支援の取り組みから、実際にどのような復職などの事例がありますか。

平岡:当社では、両立支援の実施に当たって、「本人からの主治医の診断書提出」、「産業医による本人との面談と傷病の治療状況確認」などの段階を経て、必要に応じて治療計画に関する助言を行ったり、治療状況を踏まえて就業配慮措置を行うことで両立支援をしています。

 当社に設置している「治療と仕事の両立相談窓口」では、より相談しやすい環境をつくるために利用案内の文書を社員全員に配布していますが、そこには、実際の両立支援事例を掲載しています。例えば、直腸がんの手術後復職したAさんの事例です。Aさんは手術により人工肛門となったため、復職に際して勤務や装具の交換に不安があり、健康管理室に相談がありました。この時は上司や総務部門と連携して環境の整備や勤務時間の調整などを行って復職を促すことができました。

 別のBさんの事例では、くも膜下出血の手術後にリハビリを行って復職したBさんは復職が可能な状況となったため、本人および総務部門から健康管理室へ復職までの方法について相談ありました。ご本人の体調を確認するため、産業医から主治医に意見を求めるなどして復職を検討。総務部門や上司と相談の上、勤務時間の調整や、体調に合わせた就業方法を決め、復職を果たしました。

 多くの事例でこうした経過をたどって職場に復帰するわけですが、産業医との面談で多くの方が「すぐにフルタイムで働けます」とおっしゃいます。半年間など、長期で休んでいたわけですので、「最初からフルタイム勤務で無理をするのではなく、ならし勤務からはじめましょう」と、助走期間を設けるようアドバイスします。本人としては「こんなに休んでいたのにフルタイム勤務でなくてもいいのか」という心理が働くようですが、実際に職場に戻って数カ月後などに行うフォローアップの面談では、多くの方から「あの時、短時間勤務から始めましょうと言ってもらってスムーズに復帰できた」という声が聞かれます。

監物:10年ほど前は、今のように心身の不調を言い出しやすい環境にはなかったように思います。ここ5年くらいで大きく変わったと感じます。ひとえにトップがリーダーシップを執り、何かを考える順番として、まず「安全・健康」が最優先されるというメッセージを発信し続けた結果だと思います。それによって社員の間でも健康のことを話題にするような風土ができ、われわれ健康増進センタの認知・利用の向上に結び付いたと実感していますし、これからも、もっと健康について話しやすい環境づくりを進めていきたいと思います。


業績よりも先に、労災や健康情報を報告

――今後、さらに両立支援をはじめ社員の健康管理を高度なものにしていくためにどのようなことを考えていますか。

平岡:当社では、何かを行う際の優先順位を、S(安全)⇒L(コンプライアンス)⇒Q(品質)⇒D(納期)⇒C(コスト)で考えるようにしています。この概念は、大橋徹二会長が社長時代に制定され、小川啓之社長が就任されてからも引き継がれています。健康は最優先のSに含まれ、品質やコスト以上に優先すべきであることを、トップである社長自ら、いろいろなところで社員に対して発信しており、社員に対しての事業報告の際も、業績報告よりも先に労災の状況や健康関連の情報を紹介しています。このようなトップダウンのメッセージ発信に加え、従来からの労使一体の健康管理活動の継続によって、社員全体にこうした意識が根付いたと感じています。

 また、両立支援はもちろん大切ですが、そこに至る前に対処する1次予防の点から、今後も社員個々人の「ヘルスリテラシー」(健康に関する理解)のさらなる向上に努めること、そして、さまざまな工夫をこらして時間外労働をなるべく削減し、年次有給休暇を十分に取得する文化を、さらに根付かせるようにしていきたいと思います。

内藤:休暇に関して言えば、当社は年次有給休暇の取得が年間平均で19日を超えています。これはかなり高い数字だと思います。もちろん長年労使で取得促進に取り組んできた結果ではありますが、けがや病気、出産や介護により一時的に働けない場合のセーフティネットを強化するため「ライフサポート休暇制度」を導入したことも年次有給休暇の取得促進の一助となっております。

 この制度を導入するに至ったきっかけは、年次有給休暇取得促進に取り組む中、労働組合が実施したアンケートにより、病気など、不測の事態に備えて年次有給休暇を一定日数残しておきたいというニーズがあることが判明したことです。そこで、年次有給休暇とは別に、けがや病気、出産や介護のために使用できる休暇を2014年度に制度化しました。
なお、同様の制度を国内グループ会社でも導入しています。

平岡:こうした仕組みづくりやヘルスリテラシーの向上、不調を言い出しやすい環境づくりに始まる両立支援の積み重ねが、結果として当社の長く健康で働ける環境づくりにつながっていると考えています。今後もこの流れをさらに確かなものにしていきたいと思います。
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