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両立支援の取組み事例

社員と共に生きて育った103年間。「従業員の安心」のために会社ができること 「病気」と「就労」から考える「安心」の形社員と共に生きて育った103年間「従業員の安心」のために会社ができること「病気」と「就労」から考える「安心」の形

 1917年に創業し、京都の地で100年以上製造業を営んできた二九精密機械工業株式会社は、近年たびたびマスメディアに取り上げられている。世間が注目する理由は、世界に類を見ない超精密・高精度加工技術とそれを駆使した製品や部品の開発実績があること。そして、手厚い福利厚生制度による良好な職場環境の構築を実践し続けているためだ。
 同社での治療と仕事の両立支援について、制度導入のきっかけやその効果を代表取締役社長の二九良三氏に伺った。

工場責任者の肺がん罹患をきっかけに両立支援の取組みを検討

 両立支援導入のきっかけは、3年前、勤続30年になる男性社員が肺がんを患い、手術と長期に及ぶ通院を必要とすることが判明したことだった。本人は、病気の不安に加えて高額な手術代や入院費に対する不安も抱えている。治療に専念し、職場に戻ってもらうために会社ができることは何か。「従業員の安心」を経営理念の1つに掲げる同社経営陣は、新たな制度の導入を考えた。

 まず検討したのは、生活費等に対する本人の不安を解消する方法だ。しかし検討段階では、会社が全額負担できるか、将来、会社の業績などを理由に打ち切る事態に陥らないかという課題が浮上。全従業員に“安定した安心”を届けたいという信念をもつ同社にとって、場当たり的な解決方法は本望ではなかった。

 「当社は、退職希望者がほとんどいない会社です。にもかかわらず、重篤な病気が発覚した従業員は皆、会社や同僚に迷惑を掛けたくないという理由で離職を考える。でも、本人には完治の希望を持ち続けてほしいですし、経験を積み技術を磨いてきた従業員は、会社にとってかけがえのない財産。本人が望むならば、きちんと治療し、職場に復帰してほしいという強い思いがあったので、抜本的な解決策を模索することにしました」(二九社長)。

 最終的に同社が採用した方法は、全額会社負担で団体総合医療保険に加入し、入院・手術見舞金制度を設けること。これは、病気療養による減収の補填を目的としたシンプルな制度だが、そのわかりやすさが逆に治療も仕事も阻害しないという効果をもたらした。過去にこの制度を利用して休職した従業員が7人いるが、今では病気を患う以前よりも元気に、前向きに働いている。

健康づくりや病気予防に対する意識改革も両立支援の一環

 「会社の一番の財産は従業員」と言い切る二九社長の言葉は、豊富な福利厚生にも表れている。例えば、予防への取組み。予防は両立支援の一環という考えの下、定期健康診断だけでなく、通常はオプション料金がかかる腫瘍マーカー、婦人科検診なども会社が全額負担している。
 前述の肺がんに罹患した男性も、この健康診断が重篤化前の早期発見につながった。「トップが率先して従業員の健康づくりや病気予防意識を高める意欲を見せることで、従業員も日頃から健康について考えるようになる。それが病気の早期発見・早期治療につながり、病気の重篤化を抑止しています」(二九社長)。

 また、研修制度の充実もその一つ。従業員の階層別研修や、経営・人事マネジメントに関する勉強会といった社内教育研修の実施のほか、通信教育費用を会社が一定額負担するなどの支援を行なっている。
 「こうした学習や自己啓発を奨励する環境の整備は、働きがいを醸成すると同時に、復職を積極的に考えられる職場づくりにつながっています」(二九社長)。

両立支援の対応は公平性に配慮しつつも柔軟な個別対応を実施

 同社では、従業員の病気が判明し両立を希望した際には、まず、本人と上長、経営陣で必要な支援について話し合うという。日ごろから良好な関係を築いている産業医との連携もスピーディーだ。人事担当者が窓口となって支援内容と同時に不在中の業務分担も決め、総務部が傷病手当や医療保険などの手続きを実施する。復帰に向けては、本人の了承を得て主治医との面談に人事担当者も同席、時間短縮出勤など可能な範囲の段階的復職プランを立てていく。

 休職中の従業員に対しては、社内窓口である社長室や所属部署からメールや電話などで会社の状況を定期的に連絡。日頃から業務を一極集中させない社員教育を含め、病気を理由とする欠勤や休職が気兼ねなくできる体制が整っている同社には、周囲が理解しサポートする風土が育まれている。それが、万一誰かが病気休業した後のスムーズな職場復帰も叶えているのだ。
 「会社が大きくなるにつれ、全従業員に目が行き届かなくなり、社員のモチベーション低下にも気付きにくい。従業員同士が自然に助け合う企業文化は、治療と仕事の両立を後押しするだけでなく、個人個人の不調を早期に察知することにも役立っています」(二九社長)。



ロールモデルの共有により、両立できることが身近に感じられる環境づくり

 福利厚生制度を活用し病気休職から復帰した従業員がいるだけで、職場の雰囲気がガラリと変わる。充実した福利厚生がもたらす好循環は、同社の成長を支えてきた要因の1つでもあるのだ。
 「職場復帰した方は、休職中の業務を代行してくれた同僚や部下を信頼するようになる。そして、万一他の従業員が病気になっても業務に支障が出ないよう、率先して部署全体のスキルアップやモチベーション向上に努めてくれます。闘病経験と克服体験があるから、病気や家庭の事情でストレスを抱えた人の相談に親身に乗れるし、的確なアドバイスもできる。さらに頼れる存在として会社に貢献してくれています」(二九社長)。
 肺がんを患った男性も「しっかり治して戻ってこい」という二九社長の言葉に大いに勇気付けられ、職場復帰後は後進の指導に注力。同時に、病気を理由に欠勤や休職をする仲間をフォローし合うという意識の浸透にも貢献している。

 社長はまた、「トップが常に『安心』の重要性を説き続け、安心につながる制度を整えることで、従業員の間に自然と助け合いの精神が育まれていく」とも話す。
 やりがいがあり、楽しく働けて、従業員全員が活き活きとしている会社。それこそが中小企業の本来あるべき姿だと、二九社長はいう。
 「中小企業がワーク・ライフ・バランスを謳うのであれば、徹底的に実行する覚悟をトップが持つべきです。働きやすい職場、やりがいのある仕事と感じる従業員がいなければ、中小企業の生き残りは難しいのですから」。
 自身が思い描く理想の企業を目指し、二九社長の制度改革はこれからも続く。

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