厚生労働省

治療と仕事の両立支援ナビ

両立支援の取組み事例

事業場外キャリアコンサルタントによる中小企業へのサポート事例

職場として良かれと思って行った業務引継ぎが裏目になってしまった事例

1.支援のきっかけ・経緯

●支援対象者の概要

  • A氏(事務職、40代女性、子宮頸がんに罹患)
  • コンサルティング業、従業員数は50人以下

●支援に至った経緯
がんの手術のため1ヶ月間の休職から復帰した従業員A氏。手術の経過は良かったものの、仕事に対するモチベーションは徐々に下がっているように見えたため、上司から、治療と仕事の両立支援に詳しい外部のキャリアコンサルタントへ支援の依頼があり、対面による60分間の面談を実施した。

2.支援の具体的内容

A氏の相談の概要:職場復帰はできたが職場に居場所はないと感じ、働く意欲は低下

職場や医療者など周囲のサポートにより職場復帰できたが、後輩が仕事を引き継いでいることを頼もしく思う一方で、「自分がいなくても職場はなんとかなっている」という状況に疎外感を感じるようになった、今後の病状次第では、職場内での居場所がなくなり、取り残されてしまうのでは、と話す。以前は、「会社を盛り立ててもらいたい」、「営業的な仕事もやってほしい」と言われていたが、今は体調が不安定であることと再発を考えるとその期待に応える自信がない。「前とは違う自分」、「なんだか自分じゃなくなってしまった」、「役に立てない」と感じる。家庭の事情で働かなければならない状況であり、この仕事を辞めるわけにもいかず、途方に暮れていると話していた。


●支援の見立て

体調に波があるものの9時〜17時、週5日、残業なしで勤務をしており、相談時点で大きな不調はない。しかし、従来働きがいを感じていた業務(事務)が後輩に引き継がれたことによって活躍の場が失われている。同時に、体調や再発への不安から、職場の期待に応えられない自分に不甲斐なさともどかしさ、自責の念を感じている。A氏は“やりがいを持って貢献していた自分”から“期待に応えられない自分”へと変化したことにより、働く意欲の低下と今後のキャリアの選択肢を失っている状況であると考えられた。


●具体的な支援(関わり):A氏の経験を糧に、組織に役立つ自分へ

  • まず、A氏の気持ちを整理し心理的な安定を図るため、アドバイスや情報提供は控えて、何でも自由に話せるように心がけた。働きがいの喪失、居場所のなさ、自責の念など複雑な心理状態を1つひとつ丁寧に聴いていった。
  • 次に、A氏の強みや能力、仕事の価値観などの肯定的側面に気づいてもらうために、現在および過去の業務経験を語ってもらい本人の働きがいや仕事での強みを引き出した。「疎外感」や「期待に応えられない」状態から脱却できるようにした。
  • 最後に、「職場からの期待」と「個人の働く意味」の両立に向けた方策についてA氏とともに検討した。また、今の体調と現状との折り合いを検討する中で、A氏ができる職場貢献についても話し合った。
3.支援の結果(効果)

●面談後の様子:従業員A氏の可能性を広げ、強みを活かして継続就労へ

  • A氏は、これまで同僚や家族に話したことのない経験を一気に語り、面談終了時には心が晴れスッキリした様子であった。
  • A氏は、「事務しかできない」、「病気だから重要な仕事はできない」という固定観念がなくなり、自分が対応可能でかつ職場が期待する仕事を見出すことができたようで、「これなら今の職場でやりがいをもって期待に応えられそうだ」と明るい声と笑顔に変わっていった。

●事業場での変化(管理者からのコメント)

  • 現在も継続して就業できており、元気な表情で働くようになった。
  • A氏が病気になった後、「仕事を属人化しない」を弊社の方針にしている。子育てと仕事、病気と仕事、介護と仕事、誰でもいろいろあるが、お客様に対する責任を果たすために、誰が休んでも他のスタッフが代われるようになった。
4.支援を行う上での苦労・工夫
  • A氏が語る疎外感や不安などの否定的言葉は、心の奥底にある「働きがい」が得られないことによるものと考え、むしろその否定的言葉を一つひとつ取り上げて、A氏の「働きがい」を自覚できるように尋ねていった。
  • A氏がこれまで仕事をしてきた中で、一生懸命取り組んできたことやそこで感じたことを確認することによって「働きがい」を探り、「期待に応えること」と言語化できるように注力した。
  • 職場がA氏に期待する仕事の1つとして「営業」があったが、これまでの業務経験の中で「事務所内でサービスを紹介してお客様を獲得した」ことがあり、必ずしも「営業」の形は一つではないことに気づかれた。
5.今後の課題・展望
  • A氏が実際に動いてみると新たな問題に遭遇する可能性がある。本人が描いたキャリアを形成できるように、今後も定期的なキャリアサポートが望まれる。また、予想外の体調変化への調整も必要となるため、職場内・職場外での定期的な進捗確認や相談体制の整備が望まれる。
  • 特に上司は、治療と仕事の両立のキーパーソンであるが、病気に罹患した部下への対応は個別性が高く、通常のマネジメント以上にストレスがかかる。管理者へのストレスコントロールやマネジメントのサポートも大切である。
  • また、職場の同僚のA氏に対する配慮や理解も重要である。同僚に対する病気や治療に関する教育・研修を実施できるとなお良い。

●管理者コメント:管理者も不安! 大切な従業員に無理させたのでは… 「A氏から病気のことを告げられた時、目の前が真っ暗になった。私が無理をさせたせいだと自分を責めたり、治療に専念してもらうために解雇して生活保護が良いのかと思い詰めた。また、お客様企業への責任もあり、A氏の復職を待つためにも、A氏の仕事を他のスタッフに移したが、まさかそのことでA氏がショックを受けるとは思ってもみなかった。A氏の気持ちもわかるが、どうすれば良かったのか。」 従業員本人だけでなく、企業経営者および上司の相談にのることによって、お互いが共通理解を持てるようキャリアコンサルタントによる橋渡しの支援が望まれる。


この事例は特定非営利活動法人日本キャリア開発協会の依頼により高橋浩先生(ユースキャリア研究所代表)が監修しています。

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